2016年11月02日
社会・生活
主任研究員
貝田 尚重
10月半ばのこと、いつも買い物に行くショッピングモールの八百屋さんで、思わず立ち尽くしてしまった。「高原レタス1玉780円/税込み842円」のポップ...。レタス1個で、牛丼2杯食べてもお釣りが来るほどの値段だ。サラダには欠かせない野菜だが、さすがに手が出なかった。
急騰した高原レタス (写真)筆者
8月後半から相次いだ台風の直撃や9月の長雨の影響で、東北や関東では日照不足が深刻になった。野菜の生育が遅れて出荷量が減少し、10月に入って価格が急騰したのだ。ホウレン草、春菊、ブロッコリー、ニンジン、ジャガイモなど、日々の食卓に欠かせない野菜が平年の2~3倍の価格になった。10月後半になって価格は落ち着きを取り戻しつつあり、消費者としてはホッと一息だが、生産者にはまた違う光景が見えているようだ。
福島県相馬市で有機農業を営む菊地将兵さん(30)は、「9月はほぼ1カ月間、畑に入ることができなかった」と言う。8月後半からの長雨。たまに降らない日があっても、晴天が続かないので土が乾かない。畑がぬかるんで足を取られてしまうため、全く農作業ができる状態ではなかったという。「野菜が高値取引されているとニュースで見ても、売る野菜がないので、どうしようもない」―
10月に入って天候は回復したが、苦境は来年春まで続くそうだ。なぜなら本来であれば、9月はブロッコリーなど冬野菜の種まきの最盛期。この時期の1日の遅れは1週間の収穫時期のズレにつながるというほど、植物にとっては9月の残暑は成長するための貴重な時間なのだという。「9月を逃した分、冬野菜は前年と比べて8割以上がダメになり、何とか収穫できる残りの2割も出来の悪いものが多い」と言う。
10月後半になって種まきしても、冷え込みが厳しく生育が遅いため、年末から1~2月にかけてほとんど収穫は見込めない。冬の畑仕事を確保するため、ビニールハウスでホウレン草など葉物野菜を栽培する選択肢もあるが、「葉物野菜は労力に見合わないほどにしか価格が付かず、考えどころだ」という。
天候不順で不作の時には売るものがない。ハウスで安定的に生産できるものは安値で割に合わないとは、何とも不条理。農業生産者の高齢化や後継者不足が深刻化しているが、現在のように収入が不安定な状態では若者に就農を促すのは酷だろう。消費者も安値を歓迎し、高い時には買い控えれば済むと思っているだけでは、ダメなのかもしれない。
9月の長雨の影響で、野菜の高値が続く
出典:「食品価格動向調査(野菜) (平成28年10月17日の週【10月17日~19日】の調査結果(全国平均)」 農林水産省(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kouri/k_yasai/attach/pdf/h22index-15.pdf)
貝田 尚重